地球を飛び出す夢 育て

宇宙教育の機運を高め、宇宙開発に携わる人材育成と発掘を目指す「ぐんまスペースアワード(GSA)2023」(上毛新聞社主催)が8日、前橋市の前橋総合運動公園群馬電工陸上競技・サッカー場で初めて開かれた。千葉工業大惑星探査研究センター研究員の前田恵介さんを統括ディレクターに招き、中高生向けの競技会や幼児から参加できる水ロケット作り、VR体験などのイベントを実施。来場者約1500人に宇宙やロケット技術を紹介した。

[ロケットチャレンジ]
【ルール説明】
 2回のロケット打ち上げで、搭載物・機体を破損することなく、規定の高度・滞空時間の正確さを競う。目標高度は80メートル、目標滞空時間は19~23秒。機体は、生卵と高度計を搭載するペイロード部とエンジンやパラシュートを載せるエンジン部で構成し、重量650グラム以下、全長300ミリ以上とする。機体表面が無塗装の場合は5点減点する。エンジンはフックやスクリューキャップで機体に固定し、取り外し可能でなければならない。

◎中高生11チーム作り競う
 モデルロケットを飛ばし、決められた高度や滞空時間にどれだけ近づけられるかを競い合う「ぐんまロケットチャレンジ」は、県内の中学と高校から11チーム58人が参加した。各チームが工夫を凝らしたロケットを打ち上げ、群馬高専チームが優勝した。準優勝は前橋東高の「ろけらぶ」、3位は群馬大付属中の「ふちゅうジャンピングスターズ」が獲得した。
 1チーム3~9人のメンバーが力を合わせて、固体ロケットエンジン3本を使用するモデルロケットを製作。エンジンの性能を最大限発揮できるよう、機体や先端部分、尾翼を紙やテープなどを使って丁寧に仕上げ、2回打ち上げて、性能を競った。
 最年少は東京農大二高中等部の理科部1年生4人でつくる「大根卸(おろし)」。積み荷の生卵が割れないように内部に緩衝材を詰め込んだ強度の高い機体を設計した。着陸用のパラシュートが2回とも開かず地面に衝突する悔しい結果となったが、リーダーの杉山心音(しんおん)さんは「材質を変えて再挑戦したい」と前を向いた。

【優勝 群馬高専】 松本大輝さん(3年)大佐古結和さん(2年) 山口瑛翔さん(1年)岡田和也さん(同)板橋葉月さん(同)
◎「意地見せられた」
 優勝した群馬高専は、1回目の打ち上げで目標高度に近い81メートル、滞空時間16・45秒を記録した。リーダーの大佐古さんは「結果を残せてうれしい。高専の意地を見せられた」と喜んだ。
 今大会に出場するため、「将来JAXA(宇宙航空研究開発機構)に入りたい」「物理が好き」など、ロケットに興味のある有志が集まってチームを結成。3週間ほど前から機体の製作に取りかかり、安定した飛行を実現するために素材や尾翼の配置など試行錯誤を繰り返したという。
 強度と軽さを両立するため、尾翼部分に軽量の木材である「バルサ材」を使用した。尾翼にわずかな角度を付けて配置することで、回転しながら上昇するように工夫した。
 2回目はパラシュートが開かず記録が出なかったが、1回目の好記録を振り返った5人は「パラシュートが開いた時の感動と、落下してきた卵が割れていないことを確認した時のうれしさは忘れられない」と笑顔を見せた。

【準優勝 前橋東高】チーム名「ろけらぶ」 斉藤彪人さん(2年)富沢怜央さん(同) 大沢和義さん(同)山本優太さん(同)
◎尾翼材変更が奏功
 準優勝を手にした前橋東高のリーダー、斉藤さんは「努力した結果が出てうれしい。でもあと一歩で優勝だったので悔しさもある」と振り返った。滞空時間は目標に最も近かったものの、高度が一歩及ばなかった。
 以前からロケットに興味があった斉藤さんが、理科部の部員を誘って結成した。製作期間はテスト終わりの1週間。部活後にメンバーの家に夜遅くまで集まり、試行錯誤を繰り返した。
 こだわりは、画用紙で作る予定だった機体の尾翼部分に、軽くて丈夫な「バルサ材」を使った点。変更したことで強度の高いロケットに仕上がった。機体の色は、空の色に溶け込まないよう緑と赤を使い、校名にちなんで「EAST」の文字を側面に入れた。
 今後の目標は来年度の大会で優勝すること。「今回は製作時間が短かった。次は時間をかけてシミュレーションなどを重ねながら一番を狙いたい」と意気込んだ。

【3位 群馬大付属中】チーム名「ふちゅう ジャンピング スターズ」 平沢夢生さん(2年)木下康平さん(同)滝沢由衣さん(同) 大谷愛美さん(同)富沢慧大さん(同)佐藤 陽さん(同) 西山 慧さん(同)古市 灯さん(同)武 麗さん(同)
◎トラブルはねのけ
 3位に入った群馬大付属中チームは5月下旬、ロケット技術に興味がある2年生9人で結成した。休み時間や始業前を利用し、初めてロケットの設計に挑戦、力を合わせて好成績を出した。
 学習用のタブレットを活用し、強豪チームを調べ、一からロケット作りを学んだ。ロケットに搭載する生卵が割れないようにさまざまな緩衝材を試したほか、機体の表面処理に半紙を使い、空気抵抗に気を配った。
 本番では高度計の電源が入らず、計3回も打ち上げるというトラブルに見舞われた。リーダーの平沢さんは「再度の打ち上げで機体が持つか不安だったが、2回目に勢いよく飛んでくれたので安心した」と振り返る。
 「一人でも欠けたらこの結果は出せなかった」と平沢さん。「次回は機体の重量バランスを設計時点で解決し、もっと上の順位を目指したい」と力を込める。

【総評】
◎全国大会にも挑戦を 和歌山大教授 秋山演亮氏
 全国ではロケットの高度や滞空時間を競う「ロケット甲子園」や空き缶サイズの衛星を飛ばす「缶サット甲子園」などを合わせて「宇宙甲子園」を実施している。これらの競技は今回の大会よりも高いレベルで行っている。缶サットは50チームくらい参加しているが、ロケット甲子園は5、6チームほどしか参加していない。皆さんにはぜひチャレンジほしい。
 今回実施したような大会を、今後、全国各地で開催していこうと計画している。トップバッターとして開催した群馬の皆さんには全国のライバルに負けないように頑張ってほしい。
 今回は多くの中学生にも参加してもらい、非常にうれしい。ロケット甲子園は中学生から参加できる。宇宙甲子園の競技は経験値が非常に大事になってくるので、今回学んだことを次のステップの糧として生かしていってほしい。

◎短期間で頑張った 群馬高専機械工学科教授 平社信人氏
 とても短い期間で、よくこれだけのものができたなと感心している。いろんな人の協力の下、成功に終わり、私自身もすごいと感じている。
 どのチームも予備実験をする機会がなく、どのようにロケットが飛ぶのか分からないという平等な条件でチャレンジに臨んだ。不安を感じる中、ほとんどのチームがしっかり作ってきたように思う。驚きを感じた。
 今回のロケットにはエンジンが3本あったため、製作に悩まされたのではないかと思う。一つ作動しなかったり、一つしか作動しなかったりといったトラブルも多かっただろう。そういったことの対応も含めて、皆さんの手で全部作れたのではないかなと思う。
 これを機に、宇宙に熱意を持って、どんどんいろんなことに挑戦してみてほしい。

[水ロケット教室]
◎長さ70センチの迫力あるペンシル型
 水ロケット教室は、幼児から児童までの親子連れなど約70組が、水と空気の圧力で飛ぶミニ・ペンシルロケットを作り、ロケットの原理を学んだ。
 参加者はエンジンとなる500ミリリットルのペットボトルと半分に切ったペットボトルを赤や黄など色とりどりの樹脂フィルムにつなげ、長さ70センチ以上の迫力あるロケットを仕上げた。続いて自慢の力作を発射台に設置し、合図と共に一斉に発射。「すごい遠くまで行った」などと口々に話し、水と空気を噴射しながら飛ぶロケットを目で追いかけた。
 家族で参加した高崎長野小1年の市川碧唯(あおい)君は「初めてだったけど楽しかった。また作りたい」と喜んでいた。

[打ち上げ教室]
◎紙や粘土で製作 空高く飛び歓声
 モデルロケット製作打ち上げ教室では、子どもたちが手作りロケットで打ち上げの楽しさを体感した。
 小中学生とその保護者を対象に午前と午後の2回開催し、それぞれ約30人が参加した。参加者は紙や粘土を使って小型ロケットを製作した。
 作ったら、いよいよ打ち上げ。カウントダウンに合わせてエンジンの火薬に点火、ロケットが煙を上げて空高く飛び立つと会場から歓声が上がった。130メートルほどの高さまで到達した機体もあり、子どもたちは空を見上げて笑顔でロケットの行方を見守った。
 伊勢崎三郷小3年の今井新君は「空高くまで飛んで気持ち良かった」と満足。前橋わかば小4年の筑井晴哉君は「今度はもっと大きいのを飛ばしてみたい」と目を輝かせていた。

[ロケット・宇宙服展示]
◎試着し宇宙飛行士気分
 富岡市に主要拠点を置く宇宙関連機器メーカーのIHIエアロスペース(東京都)は、同社が関わった機器を紹介するパネルやロケット模型を展示した。
 部品の一部を手がけ、小惑星探査機「はやぶさ」に搭載された再突入カプセルをパネルや模型で紹介した。気象観測用ロケットの模型も関心を集めた。
 宇宙に関する教育や体験を提供する企業「宇宙の城」(埼玉県)は宇宙飛行士の服を用意し、子どもたちが試着して宇宙飛行士気分を味わった。
 家族で訪れた高崎市の鈴木由女さん(37)は「一緒に来た3歳の息子の興味が広がってくれれば」と笑顔を見せ、宇宙飛行士が着る服を試着した桐生天沼小2年の金田匠央(しょう)君は「本当に宇宙に来たみたい」と声を弾ませた。

◎お絵描き、VR、撮影…多彩な体験 7メートル巨大ロケット発射
 さまざまな催しも開かれた。ペットボトルロケットのお絵描き体験では、クレヨンやマーカーで好きな色や絵を付けた。玉村上陽小4年の新井結菜(ゆうな)さんと妹で1年の陽菜(はるな)さんは「宇宙で浮かんでみたい」と笑顔。前橋桃井小4年の今野樹(いつき)さんは「月に行ったら旗が立つから」と万国旗を描き入れた。
 VR体験では、地上から高度3万メートルの成層圏まで上昇するカメラ映像を楽しんだ。映像を手がけた「IMAGICA EEX(イマジカイークス)」(東京都)の鈴木洋介さん(44)は「地球と宇宙がつながっていることを体験してほしい」と期待を寄せた。
 高崎市を拠点に活動する「こども宇宙センター」は全長7メートルの巨大ロケットを見事打ち上げ、来場者から歓声を浴びた。白田豊代表は「できそうにないことも工夫すればできる」と力強く訴えた。
 世界的SF映画のキャラクターも会場に登場。場内をパトロールしながら、記念撮影などのファンサービスに応じた。

◎協賛社ブース にぎわう 来場者が熱視線 宇宙で使う実物
 観測機器メーカーの明星電気(伊勢崎市)=写真❶=は、宇宙で使用されるカメラや温度を観測する小型人工衛星の実物を展示した。中でも、姿勢や位置を自動で調整して宇宙飛行士が実験する様子を捉えるカメラや、小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載され、惑星の水を検知する機器が来場者の注目を集めた。
 宇宙防衛事業部の高橋宏技術部長はブースを訪れた人に丁寧に解説し、「実際に宇宙で使われている機器に興味を持ってほしい」と呼びかけた。
 宇宙関連機器メーカーのIHIエアロスペース(東京都)=同❷=は、来場者が手に取って見られる27分の1サイズのロケット模型を設置した。人工衛星を打ち上げるためのもので、同社が設計から打ち上げまで手がけた。
 県=同❸=はぐんま天文台を紹介するパネル展示を行い、天文台で撮影した木星や星空の写真を展示した。天体望遠鏡も設置し、子どもたちが真剣な表情でのぞき込んで遠くまで見えることに驚いていた。
 コープぐんま(桐生市)=同❹=はアイスを無料配布した。会場がロケットの打ち上げで熱気に包まれる中、来場者がひと息ついた。

 主催/上毛新聞社 共催/千葉工業大 協賛/IHIエアロスペース、コープぐんま、ヤマト、明星電気、コーエィ 特別後援/県

2023.7.9 記事をダウンロード

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