宇宙パネル討論会&座談会「群馬から宇宙ビジネスを」

 宇宙教育の機運を高め、宇宙に関わる人材の発掘・育成を推進するぐんまスペースアワード(GSA)2023「宇宙パネルディスカッション&座談会」(上毛新聞社主催)が12日、前橋市の上毛新聞社で開かれた。パネルディスカッションには、宇宙開発に取り組む宇宙航空研究開発機構(JAXA)新事業促進部長の伊達木香子氏と群馬高専機械工学科教授の平社信人氏、県産業経済部地域企業支援課ものづくりイノベーション室長の田村悟氏、コーディネーターで千葉工業大惑星探査研究センター研究員の前田恵介氏が参加。座談会は4人に加え、IHIエアロスペース総合企画部長の西澤秀和氏、明星電気宇宙防衛事業部副事業部長の寺門安夫氏を招き、「群馬から宇宙ビジネスを」をテーマに意見を交わした。

データ使い挑戦を 伊達木氏
参入向け機運醸成 田村氏
最前線で人材教育 平社氏

【パネル討論会】

 前田 自己紹介を。
 伊達木 JAXAの新事業促進部は、宇宙の技術をどのように使ってもらうかを考える部署。JAXAの知財や設備を使い、企業や研究機関、普段宇宙を意識しない人との出会いの中から、新しいビジネスを考えている。
 田村 県ものづくりイノベーション室は製造業の事業の支援、技術力の向上や販路開拓、海外展開の支援を行ってきた。航空宇宙産業進出の支援に関して、昨年度から改めて事業に力を入れている。
 平社 前職はIHIエアロスペースに10年在籍し、ロケットの開発に携わった。現在は群馬高専で、超小型衛星の開発の最前線に立つことに恵まれた。教育者と技術者、研究者の役割を楽しんでいる。
 前田 なぜ群馬県は宇宙ビジネスを推進するのか。
 田村 本県は自動車産業、輸送機械の産業が盛ん。今後、産業の構造を複線化していくために宇宙への取り組みも強化していきたい。また最近はデジタル技術の活用にも力を入れている。衛星データを使ったビジネスにも取り組めると考えている。
 これまで航空宇宙分野では、航空産業へ部品の参入のみで、宇宙にフォーカスできていなかった。昨年からは機運醸成のため、JAXAとのセミナーや、企業や県職員も参加するワークショップを開催し、宇宙ビジネスの探索を始めた。
 前田 本県以外にも宇宙ビジネスを推進する自治体は増えている。
 伊達木 全国的に、これまで宇宙に関わってこなかった業種の人の宇宙関連事業への参入や、ベンチャーを立ち上げる事例が増えている。地方の課題解決に宇宙の技術を使うことで、新ビジネスに挑戦しやすくなった。地方の特性を生かし、さまざまなデータを使うことで、ものづくりをはじめビジネスの成熟化に寄与する。小型化など、地元の技術を使ってつくろうという動きも増えた。
 平社 データの活用が重要。既存の技術やデータを使って宇宙で何ができるかを考える、そこにすそ野拡大のヒントが隠されている。
 前田 宇宙参入へ、何から始めたらいいか。
 伊達木 問題解決のために、どのような社会の仕組みや機能を持つと良いビジネスになるかを考えること。会社や社会がすでに持っている技術の優位性をプラスして宇宙ビジネスの分野でも強化していくのか、逆に今困っていることや足りない部分をどう解決していくのか。その中に宇宙のエッセンスは潜んでいる。
 前田 宇宙開発に携わってこなかった企業にとって、JAXAに技術を提案するのはハードルが高い。
 田村 不明点など、県に相談することで仲介もできる。
 平社 ニーズとシーズ(技術)の出合いについて考えている。宇宙分野においてはカメラ技術や電子機器など、情報・半導体系のニーズが高いが、なかなか巡り合えない。また、サービス・エンターテインメント業界に関しては今後、商社や巨大IT企業の参入が見込まれ、宇宙ビジネスモデルを構築する主役になっていくと思う。
 田村 県は宇宙とは異なる分野では大手メーカーと県内の中小企業とのマッチングの場を設定し、県内企業の販路拡大を支援している。宇宙産業も中小企業が持っているシーズを伝える場を設定し、大手企業とつなげることができるのでないかと考えている。
 伊達木 JAXAではワークショップという形で考えるヒントやアイデアを出せる場をつくっている。海外からマッチングの話もあり、日本の技術が注目されている。
 前田 ワークショップやセミナーは話を聞いて、名刺交換して終わってしまうこともある。
 伊達木 ビジネスでも基本的な要素をつなげていくことが大切。難しく考えるのではなく、困っていることやどんなことをやりたいかを話し合うことからつなげていくのがいいのではないか。
 前田 セミナーやワークショップの次に打てる一手は。
 平社 宇宙開発の中で必要な技術を具体的に示すと、手を挙げる企業が出てくるのではないか。革新技術の提供の場を大学や高専だけではなく、中小企業にもすそ野を広げてもらいたい。技術やアイデアが欲しくても予算がないという状態がよくある。協力できる企業が出てくれば、うまく開発が進むだろう。
 前田 宇宙ビジネスを支える人材育成について知りたい。
 伊達木 JAXAでは現場で先輩から学ぶ「OJT」に力を入れている。プロジェクトにしっかり参加してもらう。つまずき、立て直し、成功するサイクルを回しながら学んでいる。
 平社 宇宙教育は開発の最前線にいれば、それが一番の教育。新たに教育プログラムを考えるのではなく、より多くの体験、最前線での経験を積むことが人材教育だと思っている。
 田村 県教委では、小中学校で宇宙を素材とした教材を教科横断的に取り入れられるよう、「ぐんま宇宙教育パッケージ」を作成している。自ら考え、行動する人材を育てるための、県主催の連続講座「始動人Jr(.)」では、製造業やデジタル産業などから講師を招き、学校教育だけでは分からないことを中高生に伝えている。独立して考える人材を育成している。
 前田 県の宇宙ビジネスに意見は。
 伊達木 宇宙を掛け合わせてみたら、より良いことが起こるのではないか。そんな妄想に近いことでも今どきの技術を使うと実現することもある。宇宙をうまく使って、ビジネスに仕立ててほしい。JAXAも手助けをしたいと思っている。ハードルが高いと思う人も多いだろうが、遠慮なく連絡してほしい。
 田村 宇宙ビジネスは衛星製造ばかりではない。県内では食品や繊維産業が古くから盛ん。積極的に宇宙との関わりを考えて自社の技術と掛け合わせてほしい。
 平社 衛星も使い捨ての時代になっており、超小型衛星を大量に生産して消費していくというビジネスモデルを構築していかなければならないと思う。群馬発の量産型の衛星に取り組みたい。

【座談会】

ビジネス拡大課題 西澤氏
異業種連携機会を 寺門氏
既存のツール活用 前田氏

 西澤 IHIエアロスペースでは、宇宙機器の開発・製造を行っている。富岡市に製造開発の拠点となる工場があり、固体燃料ロケットを製造している。
 寺門 明星電気はIHIのグループ会社で、測定機器の製造を手がけている。事業は、気象防災と宇宙防衛の二つが核。気象観測では、地球上の気象や地震などを観測している。宇宙防衛では撮像用のカメラの製造や放射線を計測する環境機器など、通信系の技術を用いてさまざまなことを行っている。
 ―現状の課題とは。
 西澤 宇宙ビジネスの拡大が課題だ。拡大にはロケットの打ち上げ数を増やすことが重要だが、そのためには、衛星を必要とする企業や人を増やさなければならない。宇宙を利用するエンドユーザーの市場規模を拡大することが欠かせない。
 前田 民間企業でも大学でも衛星を作れる時代が来た。今後、宇宙利用のすそ野は拡大していくだろう。
 伊達木 宇宙ビジネスの中で、特にデータの利用は第1次産業と親和性が高い。空の上から地上を見ることができ、水産業から林業、農業までさまざまな形で利用できる可能性がある。データの有用性が広がり、利用者が増えることがロケットや衛星の打ち上げを促進する大きなきっかけになる。
 平社 今後、超小型衛星は大量生産されるようになると考えている。現在の消費媒体は、商業衛星といった硬いイメージがあるが、携帯電話やパソコンのように、個人が所有する時代が来る。消費が拡大することで、価格が下がり、市場の拡大につながるのではないか。
 寺門 データ利用は今後必要になってくる。一方で、データ利用のニーズ把握が課題だ。明星電気でも、さまざまな技術を持っているが実際にどういう分野に役に立てるのかがまだ把握しきれていない。
 前田 軌道上実証を行いたいという企業のニーズはある。宇宙ビジネスへ新たな技術で参入するには、宇宙での実証が必要不可欠。JAXAでも行っているが、絶対数が足りず、審査が大変という面でハードルが高い。そうしたハードルを下げられれば、増加が見込まれる実証ニーズの受け皿になるのではないか。
 田村 生育状況や害獣の被害といった農林業、渋滞状況などの観光、風水害の被害状況といった防災など幅広い分野で、衛星データの活用は行政でも今後不可欠になる。こうした分野の開発などに着手してくれる県内企業がいれば、県としても一緒に取り組みたい。
 ―衛星データの活用に向けて考えはあるか。
 西澤 地上にあるセンサーが衛星データの競業相手になり得る。例えば、河川にカメラを設置し、地上から水量を確認している場合がある。既存の地上センサーより値段が安く、利便性がなければ衛星データは普及しない。
 前田 全てを宇宙で完結させようとすると、行き詰まる。近年はドローンの発達が目覚ましく、安価で手間をかけずに広範囲を捉えられる。衛星でデータを取るという姿勢ありきではなく、既存のツールを組み合わせることで最良のネットワークを構築できる。
 寺門 森林の木々の生え方などは宇宙から視認できるが、地上で観測する雨量のデータを組み合わせることで「どうしてそうなったのか」という部分を補える。データは複数組み合わせることで有意義なものになる。
 平社 衛星は自動車のような工場ラインで製造するのではなく、1点ずつ作るスタイルが主流。そのため単価も高く、量産化にはほど遠い。市場のニーズを吸い上げ、上手にマッチングできれば、量産化に向けたライン製造のビジネスモデルも見えてくる。
 寺門 衛星の開発については人材も鍵を握る。繁忙期は機械加工メーカーの手が足りなくなる。県の協力を得て、製造を委託できる企業とマッチングできるといい。電機メーカーの数自体も減少傾向にある。この2、3年は地元志向の就職希望者が増えている印象なので、県内の良い人材は積極的に採用したい。
 平社 高専では大学の編入や専攻科から大学院に行くケースが増え、学生が県内就職する事例が増えた。就活時期に高専を訪れ、就職先を探す学生もいる。群馬での人材確保は一つのキーワードだ。
 伊達木 理系と文系の幅広い知識が必要な宇宙機の開発は、しばしば総合格闘技に例えられる。企業側も満遍なく人材を確保するよう努める必要がある。
 田村 メーカーと県内企業が接点を持てる機会をつくりたい。今あるニーズを紹介し、互いにマッチングできる場を確保していく。
 ―今後の展望は。
 寺門 2030年代には人類が月面に行けるといわれている。われわれは宇宙のノウハウは持っているが、月面で人が暮らすために必要な衣食住の分野の知識がない。事業の発展のためには、異業種とマッチングする機会の創出が必要。社内でも若手からアイデアを聞いて、社内開発費を投じて研究につなげている。県内のさまざまな分野が集まって、ざっくばらんに話せる場があれば良いと思う。
 西澤 世の中の市場調査の分析を見ると、宇宙分野は今後拡大していくといわれている。ロケット開発では、今まで新しい技術の開発に注力していた。今後は商用ベースに対応し、国際競争力を高めるためにも「いかに安く、いかに大量に作っていくか」という部分にも目を向けたい。
 宇宙の市場規模の中で最も大きいのはロケットでも衛星でもなく、GPSといった地上機器。必ずしも「宇宙=ロケット、衛星」ではなく、地上からの機器やサービスでも新たなアイデアを生み出していきたい。
 田村 衛星データの活用という部分では、地域課題の解決に大きく寄与すると考えているので県として取り組みを推進していきたい。
 伊達木 宇宙に行く機会を増やすことがビジネス活用へのすそ野を広げることになる。ロケットを苦労して作っているイノベーション企業も多くあるが、すでに技術を持っているIHIさんや明星電気さんといった企業がどんどんロケットを打ち上げ、宇宙ビジネスを引っ張ってくれることに期待している。



【協賛社からメッセージ】

◎夢膨らむ 技術の応用
 ヤマト社長 町田豊氏 

 当社はデジタル技術を用いた生産システムの構築に取り組んでおります。施工の工業化を推進し、省力化と生産性の向上を図り、お客さまに満足していただけるように、価値を高めた建設生産プロセスをワンストップで提供しています。
 当社は、本県にゆかりのある作家に発表していただく場として、絵画展の開催などの地域貢献活動を行っており、今回もその一環として、宇宙に関わる人材の発掘育成を目指すGSAに協賛させていただきました。宇宙ビジネスにも建設業に培われた技術が応用されることも想定され、当社でも取り組んでいるデジタルトランスフォーメーション(DX)を用いた生産システムが、将来的には宇宙開発の一端に関わることもあるのではと期待し、夢を膨らませております。


◎食支える立場から応援
 生活協同組合コープぐんま理事長 大貫晴雄氏

 当組合は組合員の暮らしがより豊かになることを目指し、宅配サービスおよび店舗を展開しております。その他にも福祉、電気小売、保障事業に加え、食育、環境保全、子育てなどの社会貢献活動に積極的に取り組んでいます。
 コープぐんまはコープデリグループとともに「未来へつなごう」をスローガンに、五つのSDGs重点課題を設定し、目標達成に向けて取り組みを進めています。温暖化や食料危機など多くの課題を抱える地球の未来に、食を支える立場として少しでもお役に立ちたいという思いでGSAに参加させていただきました。
 地域の子育て支援に力を入れる立場として、一人でも多くの子どもが宇宙事業に興味を持てるよう、全力で応援していきます。

2023.6.30 記事をダウンロード

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