《論説》日本の宇宙開発 地方産業活性化に期待

 日本の宇宙開発を巡る動きが活発化している。1月に宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機SLIM(スリム)が月面着陸に成功したのに続き、2月には国産新型ロケット「H3」の2号機が目標の軌道に投入された。いずれの機体にも県内に拠点を置く企業の技術が貢献した。一方、県は衛星データを活用した宇宙ビジネスの展開を目指し、新事業の立ち上げを見据える。宇宙産業の市場拡大が見込まれる中、官民が連携した取り組みで地方産業と地域の活性化につなげたい。

 月面着陸成功は世界5カ国目だった。観測装置メーカーの明星電気(伊勢崎市)が製造した小型軽量カメラが搭載され、着陸場所を確認するために月面を撮影。岩石調査用の赤外線カメラからはデータが受信できており、月の起源を探る今後の研究への活用が期待されるという。JAXAはインドと共同で月の探査に向けた打ち上げを計画する。同社はさらに精度の高い赤外線カメラの開発を進めている。

 富岡市に主要拠点を置く宇宙関連機器メーカー、IHIエアロスペース(東京都)はスリムの小型エンジンを手がけ、機体の姿勢を制御し着陸の軌道に乗せた。スリムが挑戦した「ピンポイント着陸」は、両社の高い技術力が生かされ、目標地点から東に約55メートルという高精度の着陸成功につながった。

 さらにIHIエアロスペースは、H3の本体打ち上げを推進する両脇の固体ロケットブースターを製造。1994年の「H2」以来、30年ぶりに国産新型での成功を実現させた。

 同社などが出資する宇宙事業会社スペースワン(東京都)は3月、和歌山県串本町の民間ロケット発射場から小型ロケット「カイロス」1号機を打ち上げたが、直後に爆発した。打ち上げは失敗したものの、胴体の外側部分などに携わったIHIエアロスペースなど民間企業が挑んだ意義は大きい。原因を究明し、今後の開発に生かしてもらいたい。

 宇宙開発を巡っては、県が新事業の開拓に乗り出している。内閣府は昨年3月末、「宇宙ビジネス創出推進自治体」の一つとして本県を選定。これを受け、県は衛星データを活用したビジネスの展開を目指す。

 県は所管する部署と共同で行う実証実験で、ナラの枯れ木状況を確認したり、氾濫を防ぐための周辺開発を監視したりして、データの有効活用を探る。衛星データの解析に向けた企業セミナーを開き、伴走支援に努める。宇宙ビジネスは農林水産業と相性が良いとされ、新事業の立ち上げが待ち望まれる。

 小中学生の学習意欲の向上に活用しようという動きもある。県教育委員会はJAXA宇宙教育センターと協働し、宇宙に関する内容を教材に取り入れた「ぐんま宇宙教育プロジェクト」を2022年3月に発足させた。多様な教科での活用方法を検討し、授業での展開を進めている。

 同センターとの協働は全国初で、宇宙への興味を抱いてもらうとともに、子どもの視野が広がる新たな教育方法として本県を起点に他自治体にも波及してほしい。上毛新聞社も23年度から、宇宙産業に関わる人材の発掘、育成を目指す「ぐんまスペースアワード(GSA)」を始め、宇宙教育活動を後押ししている。

 宇宙ビジネス市場は大きな可能性を秘めている。民間だけではなく、自治体を巻き込んで機運を高め、新たなチャンスをつかんでほしい。

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