宇宙への夢乗せ急上昇

 前橋市の前橋総合運動公園で15日に開かれた「ぐんまスペースアワード(GSA)2025」(上毛新聞社主催)。手作りロケットや模擬人工衛星の技術力を競う競技会のほか、体験教室や模型展示、トークショーなど宇宙に関する多彩な企画が行われた。宇宙産業に関わる企業のブース出展もあり、宇宙を身近に感じる一日となった。

【ロケットチャレンジ】

◎19チーム工夫凝らし
 中高生を対象にした「ぐんまロケットチャレンジ」には過去最多の19チームが参加した。それぞれ工夫を凝らしたロケットで競技に臨み、優勝は高工Aero (”)((“)エアロスペース)、準優勝は市立太田β(ベータ)、3位は農大二中Dが受賞した。
 各チームとも2回にわたり打ち上げを実施。事前に機体の長さや重さ、搭載要件を確認した。競技は目標の高度と滞空時間にどれだけ近づけるかで審査した。安全性も重視し、宇宙飛行士に見立てて搭載したうずらの卵が割れていたり、機体が損傷しているもの、エリア外に落ちたりしたものは失格となった。
 今年は風の影響もあり、失格となったチームが続出。上位3チームに加え、附中Dream Ascenders(群馬大付属中)、玉村中学校、クリオネ(玉村南中)の計6チームのみが記録を出すことに成功した。

◆優勝 知事賞
 高工Aero(高崎工業高)

◎「万全の準備」初出場で頂点
 課題研究の授業で取り組んだ機械科3年生7人によるチームが初出場で頂点に立った。「万全の準備をして、素晴らしい結果を出せた」と喜んだ。
 1回目の打ち上げで高度がやや足りなかったと感じ、2回目は重りを外して7・5グラム軽くするなど細かな調整もした。搭載した卵と機体は2回とも無事で、滞空時間も14~16秒台にまとめるなど安定感が光った。
 パラシュートなど部品ごとに4班に分かれて制作。中村翔真さんは「各班とコミュニケーションを取る難しさがあった」としつつも、同じ精度の部品を作れるようそれぞれが研究を重ねた。佐藤陽太さんは「ものづくりの高校なので、後輩たちにも取り組んでほしい」と期待した。

◆準優勝 IHIエアロスペース賞
 市立太田β(市立太田高)

◎デザインにこだわり
 「リーダーを決めずに全員で話し合って進めることが多かった」とチームワーク重視で取り組んだ。
 ロケットを作る上で一番こだわったのはデザイン。機体の胴体部分のベースを赤色にして白い花柄を施したロケットは、大会本番で観客の目を引いた。
 本番の打ち上げ1回目はパラシュートが開かず失敗。ほとんど壊れてしまった機体を急きょ作り直し、2回目の挑戦で成功させた。
 当日欠席した1人を含むメンバー3人が2年生で、今年が最後の参加になった。来年は残った1人に新メンバーを加え、優勝と全国大会を目指す。

◆3位 IHIエアロスペース・エンジニアリング賞
 農大二中D(東京農大二中)

◎パラシュート開く
 理科部員のうち、初出場の3年生5人で構成(表彰式は1人欠席)。なかなか全員が集まる時間を取れなかったが、忙しい合間を縫ってシミュレーションを繰り返した。最後まで工夫したパラシュートは本番で開き、手応えを感じた。
 遠藤湊人さん(3年)は「そろって活動できた短い時間を有効に活用して、結果につなげることができた。困難なことがあっても頑張れば何とかなることを実感できた」と喜びをかみしめた。
 高校進学後は別の道に進む可能性もあるが、今回の入賞を糧に、それぞれの道で一生懸命頑張りたいと決意を新たにした。

【缶サットチャレンジ】

◎自作衛星でミッション
 自作した模擬人工衛星「缶サット」をドローンから投下し、さまざまなミッションに挑む「缶サットチャレンジ」。オリジナリティーや“クールさ”を競い合うこの部門では、群馬高専の「グンマります」が優勝した。
 他に、前橋工科大「MIT CanRover」と中央中等教育学校「チームヨシタカ」が出場した。各チームは「未知の惑星を探査する」といったミッションを設定。カメラやセンサーを搭載した缶サットを高さ約50メートルから投下し、放出・降下・着地する過程で、気温や周囲の状況などを観測する技術や創造力を競った。
 プレゼンでは制作面でのこだわりのほか、打ち上げで得たデータの処理方法、今後の改善点などを発表した。

◆優勝 知事賞
 グンマります(群馬高専)

◎制作期間5日で連覇
 昨年の優勝校が連覇を達成した。メンバー4人全員が同じ研究室の仲間で、超小型衛星の開発に携わる中での挑戦となった今回。制作期間は5日と短く、リーダーの滝谷優太さん(20)は「不安もあったが優勝できてうれしい」とほほ笑む。
 ミッションは「惑星地表調査衛星」で、着陸地点の状況や地表の調査にこだわった。機体を360度回転させて動画を撮影。動作確認がしやすいようにLEDライトを搭載するなど工夫を凝らし、審査員からものづくりの観点で高く評価された。
 設計、プログラム担当など役割を分担して進めたことが結果につながったと4人は振り返り、早くも「来年は3連覇を目指す」と意気込んだ。

【総評】

◎高いレベルで切磋琢磨を
 秋山 演亮さん 和歌山大教授・学長補佐
 群馬で宇宙に関する中高生の大会を開催していただけることに感謝したい。中高生もこの環境に感謝して、将来は下の世代に返していってほしい。今回の缶サットチャレンジは、大学生、高専生に加え、高校生も参加してくれた。各チームのカラーの違いが見えたと思う。
 全国大会の缶サット甲子園で勝つためにはどうしたらいいか。強くなるには、やはりライバルが必要だ。今後は、全国で優勝すると海外大会に出場できるようにもなる。ぜひ、高いレベルでライバルと競い合ってほしい。
 宇宙産業のマーケットは拡大している。いずれは、現在の自動車産業と同じ大きさになると言われている。そこで求められる人材を育成していきたい。

◎ロケットの質 確実に向上
 前田 恵介さん 九州工業大特任准教授
 ロケットチャレンジには過去最多となる19チームが出場した。大分県と鹿児島県でも同様の大会を始めたが、群馬県は最も参加数が多いと言えるだろう。先がけて開催するワークショップにも100人くらいが参加してくれた。
 今大会は3回目の開催となるが、積み上げてきた実績により、ロケットの質は着実に上がっており、宇宙産業への関心が高まっていることにも手応えを感じている。
 ロケットは丁寧に作れば作るほどよく飛ぶ。これがものづくりにおいても非常に大切なこと。ロケットや衛星を作るにはチームワークが基本であり、不可欠になる。そういったスキルを中高生のうちに身に付けて、未来へ羽ばたいてほしい。

25.11.16 上毛新聞掲載はこちら

掲載日
2025/11/16

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